2012年10月11日木曜日

もっと親切にしたのに


(ネットからの抜粋です)

休日のスーパーマーケットできゅうりを選んでいると、外国人の女性が私の横にいた女性に話しかけた。

女性は戸惑って片手を振って立ちさった。外国人女性は私を次のターゲットにさだめ、いささかわかりにくい英語で、でも決然と言った。

ここでテレフォンカードを買えますか。
私はテレフォンカードが必要です。

ここではおそらく買えません、どこで買えるか私は知りません、と言うと、どこで買えますかと一生懸命に訊く。

私と一緒に買い物をしていた人が見かねてあいだに入り、コンビニエンスストアで買えますと言った。

国際電話をかけたいと日本語で言ってください、と彼は教えた。

いいですか、コンビニエンスストアの人に、コクサイデンワと言うんです、そうしたらきっとカードを売ってくれますから。

コクサイデンワ、ですよ。

私たちは食料品を詰めた袋を持って外に出て少し歩き、コンビニエンスストアに入った。

レジの前にはさきほどの外国人女性がいて、店員さんと押し問答をしていた。

彼女は私たちを見るとぱっと笑顔になり、カードを買おうとしているんです、と言った。

彼はため息をついて店員さんに彼女の意図を説明し、店員さんは彼女にテレフォンカードを売った。

彼が彼女と店員さんのことばをほとんど無視して早足で店を出たので、私は走って追いついて、どうしたのと訊いた。

あなたは親切で立派だよ、それにとても英語がきれい、あの女の人も店員さんもあなたのおかげで助かったんだよ、それなのにどうしたの、人に親切にしたのに、いい気持ちにならないの。

だって一度教えたじゃないか、と彼はつぶやいた。

もし一度で覚えられないならメモをとるべきだ、だいいち家族を置いて外国に働きに来て電話をかけたいと思うならそのための準備をしておくべきだ、公衆電話に現金を入れて国際電話をかけたら割高だからカードを使う、そこまではあの人も知っている。

そこまで話して、彼は急に吐き捨てるような声になる。

それならどうしてそれが買える場所と買うための簡単な日本語くらい勉強しておかない、あの人は準備が足りない、そうして誰かが自分を助けてくれると思ってスーパーで声をかける、見るからに外国人の顔をして、へたくそな英語で、あんなの誰も助けてくれるはずがない、僕はそういうのを見るといらいらする、無力で少数派で頼りになる人がいなくて、だったらちゃんと自分で自分の身を守らなくちゃだめじゃないか、できることはみんなしておかなくちゃだめじゃないか、もし精一杯やった上で困っていたのなら、僕はもっとちゃんと親切にしたのに、買いたいものが置いてあるところに連れていって後ろで見ていてあげたのに。

「もっと親切にしたのに」